Appleからプロ向けのディスプレイとして「Pro Display XDR」という6KディスプレイがWWDC19(WWDC 2019)にて発表されました。
このディスプレイは6Kの解像度と広色域、そしてHDR 10に余裕で対応できる輝度を備えています。
Appleではこのディスプレイを「世界で最も素晴らしいプロ向けディスプレイ」という風に謳っています。
では、果たしてこのディスプレイが本当に映像・放送などのプロを満足させることができるのか、現在(2019年6月上旬時点)公開されている仕様から考察していきたいと思います。
Pro Display XDRの具体的な仕様
具体的な仕様としては (注目すべき点を太字で表記)
- 32インチ LCD(液晶)ディスプレイ
- Retina 6K (6016 x 3384) [約2000万画素] (218dpi[ppi])
- 16:9のアスペクト比
- P3 の広色域に対応
- 10ビットの色深度に対応
- 視野角は180度に近い
- 輝度はフルスクリーン時1000ニト ピーク時1600ニト
- 1,000,000:1のコントラスト比
- 各種規格に適合したリファレンスモード機能
- 環境に応じて色を調整するTrue Tone機能
- 反射防止コーティングの光沢モデルもしくはナノテクスチャー(非光沢)モデルから選択可能
- スタンドもしくはVESAマウントベースは別売り
- 接続はThunderbolt 3 (Pro?)
となっています。
Pro Display XDRの価格
Apple(US)の製品ページによると価格は次の通りです。
本体 (スタンド等は別売)
- スタンダード(光沢)モデル : 4999ドル
- ナノテクスチャ(非光沢)モデル : 5999ドル
スタンド等
- Pro Stand : 999ドル
- VESAマウントアダプター : 199ドル
この値段設定を高いと思うか安いと思うかは人によって違うと思いますが、筆者(@FL1NE)は「かなり安いのでは?」と感じます。
この価値観については後ほど詳しく解説しますが、1000ニトを安定して表示できるEIZOのPROMINENCE CG3145(300万)と比較すると安く感じます。
(個人的にはスタンドが999ドルするのが謎)
Pro Display XDRの6K解像度について
Pro Display XDRの大きな特徴1つ目は6K (6016 x 3384)ディスプレイです。
32インチのため218dpi(ppi)のピクセル密度を誇るこのディスプレイは4K動画などを編集する際に、4K解像度のプレビューを表示したままツールの操作が快適に行える解像度です。
(アスペクト比は16:9)
Appleがこれまでに、「5Kで4Kのプレビューと編集ツールの操作ができる!」みたいに5K推しだったものがやはり、ツールの操作でよりスペース使いたいというクリエイターの要望に答えた感じでしょうか。。正当な進化ですね。
ただいくつか疑問点も生まれてきます。
疑問点
なんで解像度が6016 x 3384なんだろう?
一番の疑問ですね。
現状2Kと呼ばれているフルHDの水平画素数が1920で4Kが3840、そのため順当に行けば水平画素数は2K + 4Kで5760になるのが普通です。
またDCI-4K(4096)や5Kディスプレイ(5120)のように2進接頭辞関連やWQHD、HDの倍などをとっても6016という水平画素数が出てきません。
明確な答えは現状不明ですが、もしかしたら27インチ5Kディスプレイ(iMac 5Kなど)のピクセル密度が218dpi(ppi)に対して、このPro Display XDRのピクセル密度が218dpi(ppi)と同一なので、「ピクセル密度同一で32インチにしたらこの解像度になった」という説が濃厚な気がします。
違ったとしても何かしらの意思のもとにこの解像度になっているはずです。
なんで32インチ?
こちらも前述したものと同様の推測ですが、ピクセル密度の関係だと思われます。iMac27インチ5Kが218dpiでRetina(人間の網膜にピクセルが認知できないレベル)と言われていたので、27インチに6Kを納めても、より画面に近づかなければ認知できないはずなので、ピクセル密度が同一になる32インチに納めたのだと思います。
Pro Display XDRの色域とは? (Display P3とDCI-P3の違いは?)
大きな特徴2つ目は色空間です。
映像・放送で使われる色空間、メジャーなもので言えば「Rec. 2020」「Rec. 709」「DCI-P3」などがあります。
(上の画像はそれぞれの色空間を人間の目に知覚できる範囲(CIE 1931)に書いた図です。[ホワイトポイント(色温度)はD65(6500K相当)]
Pro Display XDRでは「P3の広色域と10ビットカラー」とだけ紹介されています。これではDisplay P3規格なのか、DCI-P3規格なのかがパッと見ではわかりませんが、後述するリファレンスモードでP3-DCIとP3-D65への対応が謳われているので両方の規格に適合していると考えて良いかと思われます。
(ちなみにDisplay P3規格はAppleが策定した規格でDCI-P3と同じ色空間を使用しますが、ホワイトポイントがD65、ガンマがsRGB(2.2~2.4)準拠となります。[DCI-P3ではホワイトポイントが6300Kほどでガンマは2.6を使用、ホワイトポイントの輝度が48 cd/m2です。])
またPro Display XDRは10ビットカラーに対応しており、8ビットカラーの約1677万色を大きく凌駕する約10億6433万色の色表現に対応しています。
他にも「True Tone」と呼ばれる周りの環境によってディスプレイの色を調整する機能が搭載されており、2つのアンビエントライトセンサー(ALS)によってどのような環境でも最適に見えるように調整してくれます。
疑問点
色域のカバー率が不明
見落としてるだけだったら申し訳ないのですが、P3やsRGB比の色域カバー率が表記されていません。
少なくともこの感じであればDCI-P3、P3-D65のカバー率は100%を超えているはずだと思いますが、果たして…??
(Rec. 2020比のカバー率とかも書いて欲しい…)
Pro Display XDRの輝度について
3つ目の大きな特徴かつ、筆者が一番注目した部分は輝度です。
Pro Display XDRでは576個のLEDを使用して画面分割数576のエリア駆動(ローカルディミング)するようです。この画面分割数は「COMPUTEX TAIPEI 」で話題となったASUSのPA32UCの384分割を大きく上回ります。
(バックライト576個で16:9なので32×18の配置だと思われます。)
またLED自体も通常の白色LEDではなく、高輝度の青色LEDが使用されています。このままではバックライトとして利用できないので、光の波長を白色に変換するシートをかぶせることによって白色の光を得ているそうです。
また11個のコントローラーがLEDの輝度を高速に調整することにより、明暗差が大きい映像などでもハロー現象が起こりにくいようにしているそうです。
しかし、これらはまだ本題じゃありません。
このディスプレイのすごいところは
「1000ニトフルスクリーン輝度を安定して表示でき、なおかつピーク時には1600ニトの輝度で映像を表示することができます!」
コントラスト比は驚異の1,000,000:1 (100万対1)となっています。
そしてこれが約5000ドル(約55万円)。
1000ニトを安定して表示することができるHDRのリファレンスモニターで有名な「EIZO ColorEdge PROMINENCE CG3145」は市場価格で一台当たり300万円します。
同じ値段を出した時にPro Display XDRでは5台以上買うことができるうえ、ピーク輝度に至っては大幅にCG3145を上回り、解像度も6KとこちらもDCI-4KのCG3145を大きく上回ることになりました。
もう一度言いますがこれで50万円台です。これこそが自分がかなり安いと感じる理由であり、すごいと思った理由です。
ただスタンドが999ドル(約11万) ? あれはクソだ。
しかしながら、Pro Display XDRに似合うスタンドがそれ以外にないので仕方なし。。。自分なら199ドルのVESAマウントアダプターとエルゴトロンのLXアームを買うけどね。
(まじでスタンド買う人いるのか…? 流石にこの値段づけでVESAマウントアダプターは少量出荷とか許されんぞ…)
また、SDR映像に関しては一般的なディスプレイの350ニト程度を大きく上回る500ニトで表示することができます。
Appleではこの輝度、コントラスト比、色空間などを指してディスプレイの名前の由来でもある、
XDR (Extreme Dynamic Range)
と謳っています。
Pro Display XDRのリファレンスモードについて
Pro Display XDRには放送業界などで使用される各種映像規格の色を再現するリファレンスモードが搭載され、以下のモードが使用できるそうです。
- HDR Video (P3-ST 2084)
- HDTV Video (BT.709-BT.1886)
- NTSC Video (BT.601 SMPTE-C)
- PAL and SECAM Video (BT.601 EBU)
- Digital Cinema (P3-DCI)
- Digital Cinema (P3-D65)
- Design and Print (P3-D50)
- Photography (P3-D65)
- Internet and Web (sRGB)
「BT.2020」や「BT.2100」などのモードがない他、「P3-ST 2084」みたいにSMPTE ST 2084で定義されたHDRのPQ方式をP3の色空間で行う(?)みたいな不思議なモードなどもあります。
実際の製品がどうなるかわかりませんが、リファレンスモードなどの他に自分で色々と弄れるようになっていれば嬉しいですね。
非光沢モデルに搭載されるナノテクスチャガラスとは?
標準の光沢ディスプレイモデルに追加で1000ドル支払うことによってナノテクスチャガラスというものが採用された非光沢にすることができます。
これは非光沢ディスプレイが好きな筆者には朗報です。
(過去にMacBook Pro 17インチ 非光沢ディスプレイモデルを使ってた)
このナノテクスチャガラスは名前の通り、ディスプレイのガラス表面にナノメートル単位のエッチング処理を直接施し(これをナノテクスチャと呼ぶ)、通常の非光沢コーティングでは抑えきれなかった靄やザラザラ感を極限まで減らすことに成功したそうです。
これに追加で1000ドルを払うかは悩ましいですが、外での使用など、自分で照明を制御できない環境下では絶大な効果を発揮すると思われます。
(スタンドに999ドルも払うなら、このオプションつけたほうが100倍よい)
問題点と制約
ここまですごいすごいと紹介してきましたが、
やはりというべきか一部問題や制約があります。
動作温度
これ見落としてましたが、ピーク輝度である1600ニトを表示するためには動作温度が摂氏25度以下でなくてはなりません。
これが、本体温度なのか環境温度なのかは不明ですが、少なくとも夏場にクーラーが使えない場所では1600ニトを出すことはできないでしょう。
動作温度だった場合はもっとこの影響が顕著で、6Kで高輝度なLEDを使用したディスプレイであるためにある程度の発熱が予想されます。そのため1600ニトを数時間連続して表示し続けることはできないような気もします。
Mac Pro以外との接続
詳細不明ですが、どうやら現行のThunderbolt 3を搭載したMacではPro Display XDRで6Kの出力ができないかもしれないです。
これはかなり残念なポイントですね。
(まあ、GPUの性能とか色々あるのだろう…)
また付属するThunderbolt 3ケーブルもよく見ると..
「Apple Thunderbolt 3 Pro Cable (2m)」
というあまり聞かない名前のケーブルが付属してきます。
これらから推測すると…
- 6K出力をするにはThunderbolt 3 Proに対応したMacからThunderbolt 3 Pro対応のケーブルで接続する必要がある。
- Thunderbolt 3 Proに対応しておらず、Thunderbolt 3で接続する場合は5Kが最大解像度になる。
という感じみたいです。 (たぶん… あくまで推測で6K出せるかもしれない)
まとめ
正直、アップルがここまで本気仕様のディスプレイを作ってくるということは完全に想定外でした。
割と一般的な映像編集スタジオなどでは割とみんな導入したいと思っているのではないのでしょうか?
でもご注意を。
現状Mac、しかも新型のMac Proでないと性能を完全に発揮できません。
もちろん、Windowsで映るかどうかなどは完全に不明です。
とにかく2019年の秋に発売らしいので、楽しみですね。
早く実物をみたいです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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参考サイト
今さら聞けない - HDR、10bit colorって何? | CINEMA5D
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